相続された資産が狙われる時代──証券口座乗っ取りのリスクと対策

2025年5月、NHKが報じた証券口座の乗っ取り被害の急増は、税理士として非常に深刻に受け止めています。
特に注目すべきは、「相続された証券口座」が攻撃対象になっているという点です。これは単なる金融犯罪ではなく、
相続制度と資産管理の構造的な脆弱性が突かれた事案とも言えます。
乗っ取りの手口は巧妙化しています。被害の多くは、故人の証券口座が、名義変更の手続きが未完了のまま放置されていたケースや、ID・パスワードの管理が甘かったことが原因です。
マイナンバー制度が進展し、個人資産が一元的に管理されるようになった現代では、資産の見える化=資産の狙われやすさでもあるという二面性が浮き彫りになっています。
なぜ「相続資産」が狙われるのか?
相続された資産は、一時的に管理が曖昧になります。遺族は相続手続きに不慣れであることが多く、複数の口座や金融機関を把握しきれないことも少なくありません。
さらに、インターネット証券やフィンテック系の資産管理サービスは、ログイン情報さえあれば不正操作ができてしまうため、悪意のある第三者にとっては格好の標的です。
特に高齢の被相続人が使っていたID・パスワードは、紙に書かれていたり、推測しやすいものであるケースもあり、セキュリティ上の弱点が多いのが現状です。
税理士としてのアドバイス:3つの対策
生前の資産リスト作成と整理
相続発生後ではなく、生前から資産の種類や保有先を「リスト化」しておくことが重要です。特に証券会社名・口座番号・取引の有無・ログイン情報の保管方法などを整えておくことで、相続人がスムーズに管理できます。
デジタル資産の「相続準備」
インターネット証券、仮想通貨、フィンテックアプリなどのデジタル資産の相続設計が急務です。必要であれば、相続時に開示されるよう遺言書への記載や信託の活用も検討しましょう。
相続後の資産凍結とセキュリティ強化
相続発生直後は、可能な限り迅速に金融機関に通知し、証券口座やネットバンキングを一時的に凍結することで不正取引を防げます。また、相続人がアクセスを始める際は二段階認証の設定を徹底しましょう。
終わりに──相続の「リスク」時代に備える
これからの時代、相続は単なる資産承継ではなく、セキュリティと法務の複合管理プロセスです。
「資産をどう残すか」と同じくらい、「どう守るか」が問われています。
相続対策は、遺言書や節税だけでは不十分です。金融資産のITセキュリティも相続計画の一部としてとらえる視点が、今後は欠かせないでしょう。
税理士、弁護士、IT専門家が連携し、「守る相続」へと発想を転換することが求められています。
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