2022/03/07
実務の失敗例②~小規模宅地の特例~
Nさまの事例です。
税務署に掛け合いましたが、小規模宅地の特例が認められなかったケースです。
NさまとN様のお父様は以前同居していました。
ある日、Nさまのお父様とは仲たがいし、Nさまはご自宅を出ることになりました。
その後、N様は賃貸アパートを借りて暮らし、Nさまのお父様はご自宅で一人暮らしを始めました。
数年後、N様のお父様はガンになり、自暴自棄になり、パチンコなどで時間を潰し、歩道で行き倒れていたところ警察に保護され、Nさまに連絡がありました。
Nさまはお父様を介護し、介護用の車まで購入し、病院などに送り迎えなどをしていました。
お父様の病気が悪化し、入院生活が続いた後、次の施設が決まらないまま、退院を通知されました。
そして、病院側に「お父様をご自宅に一人では戻せない、誰かが面倒を見ないといけない。」と言われ
そこで、ご自宅は空き家になり、Nさまはお父様を引き受ける形で、Nさまの賃貸に移されました。
そして、10日ほどで、お父様はなくなってしまいました。
相続税の小規模宅地の特例が成立するかは
お父様のご自宅が居住用財産として認められるか否かです。
住民票も写し、最後はNさまの賃貸で看取っています。
それでも、病院側に退院の通知を受け、次の病院が決まらないので、Nさまのご自宅に移したのであれば、居住用財産として認めてほしいとして、税務署側と打ち合わせをしました。
Nさまのお話では次の病院に移るまでの一時的なものであり、介護保険を使うためには住民票を移さなければいけないと、介護?病院?側からのアドバイスだったようです。
税務署側からは判例と同時に移したものが「一時的移住である証拠を出していただければ、認めます」とのことでした。
そこで、Nさまに書類を病院側、ケアマネージャー側にコンタクトを取り、経過指示書の写しの提出を頼みましたが、「トラブルに巻き込まれたくないと言わんばかりに断られた」と言われ、居住用財産として「家なき子特例」は断念する運びになりました。
Nさまも軽い人間不信になったと言っていました。
税務では実態を重んじます。住民票があったからと言って、住民票がなかったからと言ってではありません。税務署側では一時的なものであれば認めるのです。ただ客観的な証拠がいるのです。
介護の状態では、亡くなられた後の相続税の申告である小規模宅地の特例を先回りして考えることなど不可能と言っていいでしょう。
後々にわかったことですが、住民票を移さずに介護保険を受け取れる方法もあったようだとNさまから聞きました。
住民票がご自宅にあったのであれば、問題なく「家なき子特例」として認められたと思います。
事前に専門家にアドバイスをいただくことは敷居が高いでしょうか?無駄でしょうか?
亡くなった後のことを考えることは不謹慎であるという気持ちはわかります。
それでもあえて言います。
人は生まれ、いつかは死を迎えます。
死を受け入れることが、生を受け入れることだと思うのです。
託す側はしっかりと思いを伝えること、託される側はしっかりと思いを受け取ること、
専門家のアドバイスを通じて聞いてほしいのです。
Nさまのお父様は3人のお子様の内すべての財産をNさまに相続させるという遺言書を書き残してくれていました。不器用なNさまのお父様でしたが、それだけでも十分思いは伝わったと思います。
今回は特例が使えなかったという結果に終わりました、150万円ほど税金が増えただけです。
残された財産で幸せになっていただけるものとお祈りしています。
前の記事 : 相続対策として~孫への贈与の落とし穴~
次の記事 : タワマン節税終了のお知らせ。~市場価格の最低6割~